「事業承継税制」活用のポイント

相続税・贈与税の負担を軽減する「事業承継税制」

事業承継税制とは、中小企業において非上場株式の相続・贈与による納税の負担を軽減させる制度です。平成30年度税制改正では、この事業承継税制が大きく改正され、これまでの措置に加えて納税猶予の対象となる非上場株式の制限撤廃や、納税猶予割合の引き上げ(80%から100%)などの特例措置が創設されました。

中小企業を対象に次世代経営者の引継ぎを支援する制度として注目されていますが、実は事業承継税制の改正は今回が6度目になり、2008年に同制度が創設されて以来、「使いづらい」とされてきた点の改善を繰り返してきたのですが、特に今回の改正は利用条件が大幅に緩和されています。

 

経営者のバトンタッチは総合的な判断が重要に

国が積極的に優遇税制の改正に取り組んできた背景には、相続税・贈与税の負担を重く感じ、円滑な事業承継が行えないという課題を多くの中小企業が抱えていることにあります。

図1は、社内に後継者がいる経営者の70%が「後継者への株式の承継にかかる税金の審判をしている」というアンケート調査です。事業承継税制には、こうした悩みを解決することで中小企業に経営のバトンタッチを円滑に行ってほしいという想いが込められています。

制度を活用するには、条件があり、株式の3分の2以上を保有した代表者を新たに決定することが求められ、現在の経営者は代表の座を降りなければなりません。つまり、経営権の実質的な譲渡が必要になるということです。ここで、3分の2以上の株式を譲ってしまうことの重みを整理しておきましょう。

図2のとおり、3分の3以上の株式を保有しておけば、会社の経営を思うように勧めることができます。反対にそれ以外の株主は権限をほぼ失うことになります。したがって、次の経営者にバトンを渡すときには後で後悔することないように、その後継者が経営権を手渡すのに相応しい相手なのかを見極める必要があります。

経営者としての資質だけでなく、社内の人望や取引先からの評価、金融機関との関係など、総合的に判断することが重要になるのです。

 

事業承継は余裕をもった引き継ぎ計画が必要

親子であっても実際に引継ぎした後に、経営方針の違い、また後継者の関係者などの意向が働いて、先代経営者が寂しい思いをしている姿を見かけることがあります。

事業承継において、検討されるべき課題は、単に税金コストを削減することや、スムーズに経営権が移行できる良策を見つけ出すことだけではありません。現経営者が築盛した事業価値を後継者がさらに向上させて、将来にわたり事業を継続させることができるかどうかを優先して検討すべきでしょう。

後継者にその資質や人望があるのかを判断して、もし不安要素がある場合は、経営者として不足している部分を育成する時間を確保するなど、余裕をもった引き継ぎの計画が大切になります。

特例措置を活用する申請期限は、平成35年(2023年)3月31日までとなっています。まだ5年近くの猶予があり、この期限内であれば承継を行った後で申請することも可能です。期限までにどのように利用すべきかを慎重に検討して進めていくことになります。

 

トライアンドエラーを見守る期間を設ける

親族内の承継などでは、後継者に対して「まだまだ未熟」「経営者の器じゃない」など、低評価する経営者も少なくありません。しかしそれは必ずしも後継者だけの責任ではないと考えられる場合もあるのです。現経営者は承継を行う前に後継者に経営の資質を高めるための機会を与えているのでしょうか?また、失敗すること見越して後継者の取り組みに対し、早い段階でストップをかけてしまっていないでしょうか?

経験豊かな経営者からすれば、後継者に自身の経験で培った正しい道筋を示すことは難しいことではないのかもしれません。しかし、後継者には課題に取り組むための戦略を立てるプロセスや、失敗の経験も必要なのです。そのトライアンドエラーをさせて、それを見守る覚悟が現経営者にとって重要なこと、バトンタッチまでの期間内で、継承者が自社にどのような課題が存在し、その解決方法を試行錯誤しながら見つけ出していく姿を見守ることも、承継後の経営を考えれば大切な取り組みのひとつなのです。

 

承継にまつわる支援を専門家から受けよう

株式を承継する際の税金コストの引き下げを目的に改正された今回の事業承継税制ですが、有効に活用するならば、並行して株式以外の他の資産を引き継ぐためも俯瞰的な計画策定も重要です。

事業の強みや経営者の思い、そして従業員も大切な事業承継資産といえます。税金対策、金融機関対策を含め、事業承継を全体的に捉えたスケジュールを策定しましょう。承継に関する検証や、今できる課題解決を含めて、準備万端の状態で特例措置の活用期限を迎えるのが理想的な事業承継のあり方だと思います。

とはいえ、経営者の判断だけでは主観的になりがちです。承継にまつわる支援を国が認めた専門家からなる「経営革新等支援機関」が行っています。金融機関や会計事務所が登録しているので相談してみることが得策です。

 

【図1】親族内承継の課題

  • 事業承継の課題として、約70%の事業者が「後継者への株式の譲渡」「自社株式の評価額」と回答
  • 株式を相続・贈与された場合、株式の換金性は極めて低いにもかかわらず後継者個人が多額の贈与税・相続税を収める必要

「親族内承継を考えている企業における事業承継をおこなううえでの課題」

①     自社株式に係る相続税・贈与税の負担:66%

②     将来の経営不安:36.3%

③     借入金・債務保証の引継ぎ:26.1%

④     自社株式以外の資産に係る相続税・贈与税の負担:22.6%

⑤     後継者(候補含む)が不在:19.9%

⑥     親族間の調整:16.8%

⑦     後継者候補から承諾が得られない:3.6%

⑧     相続時に自社株式が散逸してしまうおそれがある:3.4%

⑨     引退後の生活に不安がある:2.3%

⑩     その他:4.2%

 

贈与税モデルケース

資本金1000万円 従業員34人  株価:1億5千万円

⇒7,550万円の贈与税を後継者個人が納付する必要

※資本金は事業承継税制の適用を受けている企業の最頻値。従業員数・株価・贈与税は平均値

 

【図2】

人の承継 代表権 経営権
3分の2以上 株主総会の特別決議を単独で成立可能(決議事項例:事業の全部譲渡、定款変更)
2分の1超 株主総会の普通決議を単独で成立可能(決議事項例:取締役の解任、剰余金の配当)
50%以上 株主総会の普通決議を単独で阻止可能
25%以上 相互保有株式の決議権停止

【参考】中小企業庁「特例事業承継税制」
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.htm